ちょうど去年の今ごろから聴き始めたシティーポップだとか和モノなんですけど、やっぱり流行っているようで、レコード・コレクターズでも2回にわたって特集されておりました。70年代と80年代と号が別れているんだけども、個人的には82~83年くらいになにか境目があるような気がしていたところ、そんなことが書かれていて一安心。
70年代のこの辺りの音楽は志が高いというか「こうあるべき」みたいな雰囲気があって、それが強く感じられるもの(=シンガーソングライターがセルフプロデュースするもの?)はぼくはあんまり好きじゃなくて、歌う人と別にプロデューサーがいるっていうタイプのものをよく聴いている気がする。その辺の切り替わりというのか、洋楽へのリスペクト丸出しの開き直りが出てくるのが82~83年くらいなのではないかと。
そんな前置きがありつつ今回紹介する『TURU TRAFFIC』というアルバムは、作詞・作曲からボーカル・コーラス・プロデュース等々を全部自分たちでやったやつなんだけど(笑) 八神純子のバックバンド「メルティング・ポット」で意気投合した鳴海寛と山川恵津子が組んだデュオ「東北新幹線」の唯一のアルバム。こういう1枚だけっていうアルバムにはすごく惹かれるものがある。発売は1982年6月。これを聴いた山下達郎が、ふたりに自分のツアーにコーラス隊として参加するように要請したけど、スケージュールの都合で(その時は)実現しなかったという話。
レコーディングは順調に進んだもののそこから先が難産だったらしく、そうこうしてる間に作るからには売りたいレコード会社と、フロントに立ちたくない山川恵津子と表に出てもいい鳴海寛と意見が合わなくなって、いざ完成した時には八神純子のライブで数曲披露しただけで、プロモーションは一切なし。結果的に「知られざる奇跡の名盤」になってしまった。
鳴海寛はその後、来生たかおのバンドで活躍しつつ、88〜89年に山下達郎のツアーにギタリストとして参加していたみたい。ソロアルバムもいくつか出ているけど、残念ながら2015年に亡くなってしまった。一方の山川恵津子は「同じ声で歌える」という美声の持ち主なのとは裏腹に、主に編曲家/アレンジャーとして快進撃を続けていく。ちょっとインターネッツで検索してみたら、このころとは全然違うファンキーなお姿になっておられました。バリバリ現役!
肝心のアルバムの内容はスッキリ爽やかなジャケットのイメージもありつつ、全体的にはミディアム~スローな落ち着いたナンバー多め。なんとなく夜っぽい。ふたりとも声がきれいだから、とにかくクリアーにスムーズに進んでいく。好きなのは『月に寄り添って』かなー。男女のデュエットって80年代の流行でもあるし。これが82年ってことはかなり先を行っていたというか本流と外れたところにいたわけだから、当時ちゃんとプロモーションが行われてても売れたかどうかわかんないね。とは言え、シティーポップ界隈では絶対に外せないマストな1枚。